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2020.01.22 日本酒の「酵母」の歴史


日本酒の「酵母」の歴史のイメージ

酒蔵ごとに持っていた酵母

醤油や味噌、パンなど、それぞれの発酵物に適した酵母菌が存在します。清酒造りにおける酵母は、古来より「蔵付き」と呼ばれる個々の蔵に住み着いたものが活躍していました。

清酒造り仕込みタンク(桶)には蓋がないため、タンクの中で泡がはじけ、酵母が空中に飛散。蔵に付着し、それが回り回って、次の仕込みのタンクに入ります。また人に付着する微生物など、さまざまなものと混じり合いながら生存競争が繰り返され、蔵に独自の味わいができあがるのです。

これは近代化の進む100年前頃まで続きます。

酒蔵ごとの個性「蔵ぐせ」

酵母が清酒に及ぼす影響は、味のみならず、発酵力の強さ・弱さ、風味などさまざまです。その蔵にしか棲みついていない酵母が活躍することで、同じ酒蔵で造られた清酒に、共通した風味や味わいを感じることがあり、これを酵母由来の「蔵ぐせ」と呼びます(他のものに由来する蔵ぐせもあります)。ほかにも酒蔵ごとの考え方や醸造方法をふくむ、広くとらえた意味での環境すべてが、その蔵ならではの個性豊かな味をつくりあげるのです。

酒税は重要な国税だった

一方、蔵付き酵母で酒を醸すことで、飲めない「腐造酒」を一定数生み出してしまうなどの問題が生じることもあります。1900年前後、日本の税収のうち3分の1ほどが酒税であった時代には、出荷できるおいしい酒を安定して酒蔵につくってもらい、税収を確保する必要がありました。そこで現在の「酒類総合研究所」を設立。全国から酒を集めて新酒鑑評会を行い、良質な酒を造ることのできる酒蔵を調査しました。この取り組みは現在も続き、酒蔵にとっても自分たちの技術のレベルを確かめられるとともに、高い評価を得ることで全国に名を広めるきっかけとなるなど、多くのメリットがあります。

近代後に誕生した「協会酵母」

新酒鑑評会で安定しておいしい酒を造ることのできる酒蔵がわかると、その蔵の酵母は分離、純粋培養され、清酒用の酵母として全国に頒布されるようになります。これが「協会酵母」というものです。さらに酒造りの技術指導が行われることで、より高品質な酒を、安定して造れる体制が整えられてきました。現在は秋田県の「新政酒造」、長野県の「宮坂醸造」、熊本県の「熊本県酒造研究所」などの酵母が協会酵母として、全国各地で用いられています。

多様化する清酒酵母

戦前、協会酵母が誕生する以前の国内には、7〜8,000もの酒蔵がありました。しかしながら日本酒の消費量・製造量のピークは1975年前後。そこから比較すると現在は7割ほど減少し、3割程度になっています。消費量と比例するように、酒蔵も減っていく一方です。

そのような中で、協会酵母ではない独自の酵母を培養し、新しい酒を醸す試みも増えています。その一例が、花から培養された酵母を使ったもの。必要な糖分があり、花びらが開くまで内部に微生物がいないため、清酒製造用酵母が取れやすいそう。独自の取り組みを行うことで個性が生まれ、味わいが多様化。また日本のみならず、諸外国の食生活にも合う日本酒ができることで、さらなる発展が期待されています。

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