麹は3つの種類があると言われています。まず「草麹」は、粉末にした穀物を団子のように成形し、植物の葉や樹皮などから移植したカビを繁殖させたもの。中国の古典では「酒薬」と記されています。小麦や大麦をもとにつくられる「餅麹」は、現在の華中や華南で酒造に用いられますが、日本では広まりませんでした。一方で蒸米の一粒ずつに黄麹菌だけを繁殖させた「散麹(ばらこうじ)」が、日本酒や日本の味噌、醤油造りで使われています。
麹は「米、麦、豆などの穀物、それに穀物調製の際にできる副産物である麬(ふすま)、ぬかなどにカビを繁殖させたもの」と定義されています。
醸造で主に使われる麹菌は、アスペルギルス属のカビ。「オリゼー」、「ソヤ」、「タマリ」の3種類が存在し、それぞれに役割があります。ソヤは醤油醸造に、タマリは豆味噌や醤油に使用。オリゼーはデンプン糖化力とタンパク質電解力ともに強いため、味噌や清酒、醤油などの醸造の際に利用されています。一般に「黄麹」と称されるオリゼーは、日本を代表する国菌でもあります。
清酒をつくる場合必要なのが、米麹。酒造業者は全国に10社ほどある専業種麹製造者より「種麹」を購入し、酒造りを行います。種麹とは、麹菌の胞子を大量に集めたもので、その胞子こそが麹のもと。会社によって酵素生産性や増殖速度などが異なり、目的とされる酒質に応じた、種々の特性を有する種麹商品があります。
酒造りは「一麹、二酛、三造り」と言われています。まずは蒸米に麹菌を生育させ、米麹を製造したあと、水と麹と蒸米を用いて酒母(生酛(きもと))の製造を行い、酵母を大量に増殖させます。さらに日本の場合、複数の微生物種を同時、または順次利用することも特徴的。その他さまざまな技術により、諸外国の醸造種ではみられない20パーセント近い高濃度アルコールを、10〜15℃の低温醸造において生成することができるのです。近代科学成立以前からの経験の積み重ねにより、微生物を巧みにコントロールする清酒醸造が、今も変わらず続いています。
味噌や醤油、清酒の製造には黄麹菌が用いられていますが、焼酎の場合は何でしょう? 正解は、黒麹菌(アワモリ)・白麹菌(カワチ)。これらは焼酎製造に必要なクエン酸、また耐酸性の酵素を生産することが特徴です。
実は明治時時代まで、焼酎造りでも黄麹菌が使われていました。しかし生産地である南九州地域ではもろみの低温管理が難しく、腐敗することも少なくなかったことから、黒麹菌を沖縄の泡盛のもろみから分離させることに成功。以後、鹿児島県全域に広がりました。さらに大正7(1918)年には、黒麹菌の変異株として分離された白麹菌は、香味ともにソフトな焼酎を製造できることが人気となり、多くのメーカーで使われることとなりました。