2017(平成29)年のデータによると、兵庫県には、全国の3割にあたる6212haもの酒米作付面積があり、銘柄品種数(22種類)とともに全国ナンバーワンを誇っています。酒米の王様といわれる「山田錦」の畑は、全国の6割である5490haでつくられており、全国543の酒蔵へと届けられています。このように、兵庫県での酒米作りが盛んなのはなぜでしょうか? 土地の特徴に加えて、酒米作りを後押しする県の取り組みも関係しています。
酒米作りに適しているのは、昼と夜の気温差が大きい中山間の谷あいや盆地、水が綺麗なところです。北磻磨地域は標高50〜150mの山間地で、南西部に広がる播磨平野には、加古川、市川、夢前川、揖保川、千種川の5本の清流が流れています。また、兵庫の土地は、神戸層、大阪層群と呼ばれる地層からなります。特徴は、石灰(カルシウム)や苦土(マグネシウム)、カリウムなどミネラルを多く蓄えることができる、モンモリロナイトという粘土質の土壌です。山田錦をはじめ、酒米の稲は丈夫に、背が高く、大粒に育つ必要があるので、肥料成分の保持力が高い土壌も、酒米づくりに向いているといえます。
1928(昭和3)年7月、兵庫県は、全国唯一となる酒米に特化した研究組織「酒造米試験」を河東郡福田村(現・沢部)に開設し、1952(昭和27)年8月に現在の名称である「酒米試験地」と改称しました。ここでは、主に栽培試験および、山田錦の原原種生産、気候変動や病害虫に強い新たな酒米の育成等を行っており、兵庫県産山田錦の生産性の安定化や品質の向上を支えています。2019(平成31)年4月には、酒造メーカーが共同研究を実施でき、一般の人が県の取り組みや歴史を学べる「酒米研究交流館」も新たに併設されました。
近年の地球温暖化は様々な方面に影響をもたらしていますが、酒米づくりも例外ではありません。山田錦は花が咲いてから20日間くらいの1日の平均気温が25〜6度を超えないことが望ましい条件ですが、1998(平成10)年頃から、その気温を上回ることが増えてきました。兵庫県立農林水産技術総合センターでは、2013年、高温障害による品質や収量低下を防ぐために、「山田錦最適作期決定システム」を開発。このシステムによって、産地の気象情報から、温暖化を回避できる最適な田植えの時期を逆算することができるようになりました。
また農林水産省主催で、県外の17機関が参加している「次世代酒米コンソーシアム」の代表機関を、兵庫県立農林水産技術総合センターが務めました。海外の日本酒の需要が右肩上がりに伸びていることを受け、2016(平成28)年より開始された事業が海外輸出用の日本酒新製品の開発、また地球温暖化による気候変動に対応した、酒米の栽培技術の確立に向けた研究です。例えば、「兵庫錦」や「Hyogo Sake 85」は、このプロジェクトから生まれた新品種。ほかにも、スマートフォンを用いた生産診断技術など、酒米作りをバックアップ(アップデート)する様々なシステムが、兵庫県を中心に開発されています。