日本の醤油には約400年の歴史と伝統があります。奈良時代の醤(ひしお)と呼ばれる調味料にその原型がみられ、今日の醤油に近いものは鎌倉時代に生まれたと伝わっています。江戸時代前期に生産が本格化し、その頃に播磨も重要な醸造地の一つとなりました。
醤油の魅力はずばり色、味、香り。これらは微生物の働きで原料が変化し、互いに作用しあって生まれます。3つの魅力を紐解き、さらに醤油の世界を覗いてみましょう。
目で見て鼻で嗅ぐだけでも、醤油の味わいを感じることができるでしょう。醤油の色は種類によって異なり、こいくち醤油は透明感のある鮮やかな赤橙色。これは熟成中に反応してできるメラノイジンという物質によるものです。香りの成分は、現在までで約300種類も発見されています。りんごやバラ、バニラなどさまざま。醤油の香りには魚介類や肉類の生臭さを消すスパイスのような働きがあり、かつ加熱することで香ばしい香りを生み出します。
醤油の味を奥深くするのが、甘味・酸味・塩味・苦味・うま味の「五原味」です。これらがあるからこそ料理をさらに風味豊かに、おいしく仕上げることができるのです。甘味は味をやわらかく、丸みを持たせる役割。小麦のデンプン質が醸造中に変化しブドウ糖が造られるためにできあがります。酸味は味を引きしめる働きを。乳酸菌の働きにより、ブドウ糖が変化することで生まれます。醤油の食塩分は、こいくち醤油で16〜17パーセント。それほど塩辛く感じないのは、そのほかの成分が塩味を和らげているからだそう。苦味はコクを与える隠し味のような存在。うま味は、大豆と小麦のタンパク質が麹菌により分解されて生まれる、約20種類のアミノ酸でできています。中でもリジンやスレオニンといった成分は、お米や小麦などの主食からは摂取できないため、特に貴重です。
大腸菌などの増殖を抑えたり、死滅させたりする効果があると言われる醤油。醤油漬けや佃煮といった常備菜は、そういった性質を生かした料理です。刺身を食べる際、醤油をつけるのはおいしいだけでなく、醤油に食品の生臭さを消す働きがあるから。その他にも、甘い煮物の仕上げに少量加えると甘味が引き立ったり、塩辛いものに垂らすと辛さが緩和したりすることも。そばつゆや天つゆのように、醤油のグルタミン酸と鰹節のイノシン酸が働き合い、深いうま味がつくり出される味の相乗効果も起こるなど、組み合わせることで生み出されるおいしさもたくさんあります。
醤油のおいしさを長持ちさせるには、開封後は冷蔵庫に入れるのがベスト。なぜなら醤油には、空気に触れたり太陽の光や熱の影響を受けたりすると、色や風味が急速に落ちてしまう性質があるのです。
また、香りを活かすにはなるべく料理の最後に入れることがコツ。最初から醤油で煮る料理は、仕上げにもう一度加えると香りをさらに味わうことができるでしょう。さらに味噌、みりん、清酒などといった発酵食品と一緒に加えると独特の風味をつくりあげることができます。チーズなどの洋風な食材にも相性がいいのも、発酵食品同士だからこそ。